高野史緒『ムジカ・マキーナ』読了

ムジカ・マキーナ

ムジカ・マキーナ

舞台は1870年頃のウィーンとロンドン。フランツ・ヨーゼフ・マイヤーは音楽の理想を求める高い志とそれに見合う才能をもっている若手指揮者。しかし現実には楽団員とそりが合わず、鳴かず飛ばずの日々を送っていた。最高の環境を求めて人気の舞踏場「プレジャー・ドーム」へ訪れるが……。音楽の理想とは何なのか、そしてムジカ・マキーナ(=機会音楽)とは?
19世紀ヨーロッパを舞台に虚実入り混じるストーリー。また、土木技師サヴァリッシュ、警察官のショルティなど例を挙げるとキリがないですが、端役の名前なんかもクラシック関係の名前がたくさん出てきますし、J・シュトラウス2世やブルックナーなど実在の人物も出てくるので、混乱しそうになりながら読みました。また、クラシック用語が結構出てきます。これは、知らなくても読めるでしょう(勿論知っていればより楽しめるのは云うまでもありません)。しかし面白い! 何と云っても全編に音楽が鳴り響いています。
そして、テーマである理想の音楽、或いは音楽の理想。これはクラシックに限らず、音楽にとっての永遠のテーマ。ちょっと引用。

人は音楽を聴く時に、意識的、あるいは我知らず、未だ見ぬ理想を音楽のうちに探る。聴き慣れた音楽には、その音楽としての理想を。聴き知らない音楽には、未知なる理想の天啓のごとき出現を。

これはもう完全にそうですよね。しかし、この理想と云うのは結構厄介で、私はショパンには人一倍思い入れがあるのですが、そのせいで理想のハードルが高すぎて、逆に満足することがほとんどないんです。CDもあまり買わない。好きな作曲家なのにあんまりCD持ってないと云う不思議な現象になっちゃってます。私が一番好きなピアニストはミケランジェリですが、そのミケにしてもショパンの解釈は全然頂けないと思っちゃうんです(音は大好きですが)。
でもその理想を求めるから人は音楽に惹かれるんでしょうかね。音楽の理想を考える人にお薦めの本でした。