楠原佑介『こんな市名はもういらない!』読了。

こんな市名はもういらない!―歴史的・伝統的地名保存マニュアル
ひらがな地名ってカッコ悪いよね、と云うくらいの軽い気持ちで読んだんですが、なかなか面白かったです。でも何て云うか攻撃的と云うか鼻息荒い文体に少し辟易しました。例えば南アルプス市を批判するのに、

だが、この考えは浅ましくも軽佻浮薄で、愚かにして大間違いである。

なんて文章が出てくる訳です。つい笑ってしまったよ。この調子でやるのは明らかに損だと思います。清水義範の「序文」*1(『蕎麦ときしめん』所収)とか「保毛田岩の由来」*2(『私は作中の人物である』)とかを思い出しました。いや、そこまでではないんだけど。
それと、「詳しくは調べていないが、すべてを数え上げればその例は数十に及ぶだろう」なんてのもしばしば出てきて、この辺は根拠と云う点でどうなんでしょう。まあ、現在進行中の平成の大合併*3に対して警鐘を鳴らすために刊行を急いだのかもしれませんが*4
とは云え、内容がひどいわけではなくて、著者の主張は簡単に云えば、「新しい地名をつくらず、現在の自治体の境界線・範囲に最も合致する、或いは、現自治体の行政的または位置的中心にある歴史的伝統的地名を使え」と云うこと。例えばさいたま市の問題点は、県名の「埼玉」は現在の行田市あたりの古代の郷名が由来なのに、全然別のところがその「さいたま」を名乗ることにあると云うのは説得力がある。
また、地名の公募にも反対している。地名を一番頻繁に使うのはそこの住民だろうが、住民だけが使うのではなく、みんなが使うわけで、その地名をそこに住んでる人だけで勝手に決めると云うのは確かに変と云えば変だ。また、この公募自体がこんなにいい加減だったってのは驚き。投票で1位になったものが結局選ばれていないことがかなり多いし。
日本語は世界の中でも上からの規制のかなり緩い言語ですが、それは地名についても当てはまるんだなあと思いました。

*1:素人学者が書いた『英語語源日本語説』なる架空の本の序文に擬した小説

*2:民間郷土史家の論文に擬した小説

*3:合併特例法は2005年3月まで

*4:本書刊行は2003年4月