田中慎弥『図書準備室』読了。
- 作者: 田中慎弥
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2007/01/30
- メディア: 単行本
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そのあらすじを聞くかぎりでは、ほとんどネタみたいな話なのかと思っていたけど(またそれを期待してもいたんだけれど)、その云い訳の後半はなんだか急に戦時中の話になったりして少し意外だった。まあそこそこ面白かったけど、単調なのがつらいなあと云う印象。
僕としては「ほか1編」の、新潮新人賞を取った「冷たい水の羊」が傑作だと思った。
「いじめられたと思わなければ、いじめられたことにならないという「論理」を持った少年の話」と云っちゃうと良さが全然伝わらないな。とりあえず、ここから想像できる痛々しい話ではあまりない。いや、いじめのシーンなんかはかなりきついことやられてるし、痛くはあるんだけど、そこはそれ、いじめられてるとは思ってない「論理」があるわけだから、なんか奇妙に冷静と云うか第三者的な目線での描写になり、あまり真に迫る感じにはならない。
その冷めた目と云うか暗ーい筆致が僕的にもの凄い魅力的だったし、頻出するへんちくりんな擬人的な比喩も好き。
(略)毎夜皿に積まれる蝦や蝦蛄、煮汁に浸かっている魚も、死の側へ完全に移動させられているのに、壊れそうなほど身体を張りつめ、箸で抉った肉には弾力があり、舌に乗せるといくつかの欠片に分れ、潮の匂いが喉を下ってゆく。
この文章なんかも、食べ物としての生物に生死を見ると云うまあ云ってしまえば平凡な見方なんだけど、それに続く文章が、
おいしいのでたくさん食べた。
何とも云えない味わいがある、と思う。まあつまり文章が気に入ったんです。
ただ、後半になっていきなり主人公以外の人物の視点になったりして戸惑った。それが何らかの効果を出しているのかは、よく分からなかった。あと、やっぱり単調ではあるので、気に入る部分がないとつらいかもしれない。あそうか、視点の変化は単調さを嫌ってのことだったのかも。あまり成功してるとは云い難いが。
ひたすら暗いがじめじめはしていないし後味も悪くはない、湿度の低い暗闇が好きな人向け。