岡田暁生監修『ピアノを弾く身体』読了

ピアノを弾く身体

ピアノを弾く身体

そもそも音楽とは、単に「目を閉じて聴く」だけのものではなく、何よりまず身体全体で「する」ものであるはずである。身体を動かしてみなければ、演奏してみなければ見えてこない、音楽の本質的な相というものが存在する。「聴くものとしての音楽」という視点からは得られないところの、「演奏としての音楽」の魅力を、聴取者の側からではなく、演奏者の立場に即して論じるということ。演奏すること(Musizieren)を通した音楽研究。これこそ本書が目指すところである。

とある通り、ピアノを弾くと云う行為を通して音楽評論を考えた1冊。なかなか新鮮で面白かったです。確かに、弾くことによって得られるもの、感じられるものは多いですね。私にとってはスカルラッティがそうで、聴く分にも勿論つまらなくはないんですけど、断然自分で弾いた方が楽しい。自分で演奏するまではあんなに自由な曲だとは思ってませんでした。
本書は3部構成になっていて、それぞれ、弾く手自体について、弾く身体と個々の作曲家の作品、ヴィルトゥオーゾに関して、と云うことになっています。
ヴィルトゥオーゾの項では、技巧の複雑化の行き過ぎで結局凄さがわかりにくくなっている例としてゴドフスキが、技巧の合理化の行き過ぎでせっかくあった凄さが失われている例としてブゾーニ(のリスト編曲)が、それぞれ批判されていますが、ゴドフスキの曲はヴィルトゥオシティを目的としたものではないし、ブゾーニは合理化の危険性を承知の上だったんじゃないかなとも思いました。
と、違和感を覚えたところもありましたが、1冊通してうなずける話も多く、特に、演奏する人にとって常に問題となる運指の話や、ハイフィンガー奏法批判、(音を出すことではなく)音を止めることなど、ピアノを聴く人、弾く人にとっては必読とも思える話もたくさんあって、お薦めの1冊です。