ボリス・ベレゾフスキー ピアノリサイタル


12/2 7PM 紀尾井ホール

アンコール

ピアノ:ボリス・ベレゾフスキー

前半は「展覧会の絵」。個人的には、ラヴェル編は別として、オリジナルのピアノ独奏版に関しては、ここまで頻繁に取り上げられるほどの名曲だとは思ってません。別に嫌いじゃあないんですが。こんな私ですが、この日の演奏にはやられちゃいました。難しげなパッセージも軽々と弾いてしまうんです。かと云ってあっさりではなく熱のこもった演奏。特に「リモージュの市場」とか「バーバ・ヤーガ」が超高速でエキサイティングでした。前半の演奏で気分がよくなってしまい、休憩中にサイン会用のCDを買っちゃいました。リストの超絶を買おうかとも思いましたが高かったので、1,000円のショパン。今までコンサート会場で売ってるCDって買ったことなかったんですが。まあ安かったってこともありますけどね。
後半はショパンエチュードとそれに基づくゴドフスキを交互に。まず最初はOp.10-1。テンポを揺らすなど思ったより癖のある演奏でした。ゴドフスキ編は両手版。これまたびっくりの高速演奏。ゴドフスキの特徴である複雑な声部を弾きわけると云うよりは、豪快できらびやかなものを目指したのかなと思いました。これ以降の曲でも思ったのですが、そう云う意味ではゴドフスキのこの曲集はコンサートで弾くには余りにも緻密すぎ、むしろ録音で楽しむべき曲なのかもしれません。ただ、この日は私の座席はかなり後ろの方だったので、そのせいで細かいところまで聴けなかったのかなとも思います。もうちょっと前の方のいい席で聴きたかったなあ。いつもの学生席じゃなくてA席を買ったのに……。あ、関係ない話ですが私の座席の近くには評論家の黒田恭一氏がいました。
 閑話休題。次はOp.10-2。ゴドフスキ編は「鬼火」。この曲に限らず副題のついてるゴドフスキ編は個人的に好きですが、これはすごかった。原曲の半音階は左手に任せて、右手で新たな和音の旋律を奏する曲ですが、その左手の半音階が、一糸乱れないとはこのことかと思わせる演奏。このあたりから聴衆もゴドフスキの世界に引き込まれていったようでした。
次にOp.10-4とゴドフスキ編左手。こう云う曲を原曲の後に弾くのは、どうしても見劣り(聴き劣り)するんじゃないかと思ってましたが、ほとんどテンポが一緒でびっくり。しかも原曲もそれなりの速さで弾いたのに。アムランの録音でもやや大人しめになっているだけに驚きました。
Op.10-5「黒鍵」とゴドフスキ編「白鍵」及び「タランテラ」。ゴドフスキが最も多くの編曲を書いた「黒鍵」(なんと7曲!)のうち、ベレゾフスキーは2曲を弾きました。「白鍵」の疾走感、「タランテラ」のもの悲しさを堪能。
Op.10-6とゴドフスキ編左手。ショパンエチュードの中でも無類に美しいメロディの曲。ゴドフスキ編は左手のみにも関わらず原曲よりも複雑になっているだけでなく、美しさも増しています。その暗い雰囲気を充分に表現した演奏でした。
次はプログラムに変更があり、Op.25-5とゴドフスキ編「マズルカ」。この「マズルカ」も好きな曲で、楽しい編曲になっています。演奏も勿論素敵でした。
Op.10-12「革命」とゴドフスキ編左手。この左手も原曲とほとんどスピードが変わりませんでした。その凄まじさは、演奏が終わるとつい客席から拍手が鳴ってしまうほど。原曲と並べて演奏すると云うことは、テンポも迫力も減らすことなく演奏できる自身があってこそだったんですね。
最後にベレゾフスキーはゴドフスキの独創的な2曲を持ってきました。まずはショパンのOp.10-5「黒鍵」とOp.25-9「蝶々」を組み合わせてしまったもの。その名も「冗談」。でも冗談では弾けない曲です。最後はOp.10-11+Op.25-3で優雅に締め括られました。
アンコールはまずショパン/ゴドフスキの小犬のワルツ。そしてラフマニノフ前奏曲Op.23-6、Op.32-12、Op.23-5の3曲(ホワイエに貼り出された掲示は間違ってたような)。ラストが静かに終わる曲の場合、ベレゾフスキーはホントにさりげなく最後の音を出すのですが、そこがとても気に入りました。
終演後のサイン会は盛況でした。本人は少し疲れてるようでしたが(当たり前か)、笑顔でサインをしてくれました。背も手もでっかい人でした。兎にも角にも満足なコンサートでした。今度のヴォロドスもこれだけ満足できればいいなあ。

ショパン:練習曲集

ショパン:練習曲集

Godowsky Etudes

Godowsky Etudes